国際カルテル調査

国際カルテルが会社を滅ぼす
ー日本企業の取るべき対応策ー

虎ノ門ヒルズで開催されたリーガルテック展で国際カルテル対応の専門家であるベイカー&マッケンジー法律事務所の井上朗弁護士が「国際カルテルが会社を滅ぼす」ー日本企業が取るべき対応策ーというテーマで講演されました。

ベイカー&マッケンジー法律事務所

ベイカー&マッケンジー法律事務所 井上弁護士

競争法の共通化で、カルテル摘発は世界規模で

ベイカー&マッケンジー法律事務所は、世界48カ国に77の事業所があり、独禁法対策専門の部門で350人の弁護士を擁しています。井上先生は、このグループの東京オフィスを担当しています。

「反トラスト法のコンプライアンスを実現しなければ、会社が潰れてしまう。」これが、井上先生が日本の企業の方に強く伝えたメッセージでした。

国際カルテルの摘発事件は増加しています。かつてのカルテルは完全な密室で行われ、証拠収集が困難でした。ところが、リニエンシー(違反行為を自主的に申告することで罰金・罰則などが軽減される制度)やアムネスティプラス(違反事実Aについて調査を受けている場合、別の違反事実Bを申告することでAについても刑罰が軽減される)というインセンティブが設けられ、また、企業の善管注意義務としても社内調査と積極的な申告が求められるようになり、証拠が芋づる式に集まりやすくなりました。各国当局間の情報交換も活発になり、競争規制当局は国境を越えて徹底した摘発を行う構えです。

世界で事業を展開する日本企業にとって、摘発は他人事ではありません。反トラスト法・競争法は伝統的な法執行と異なり、規制当局は経済活動が活発で経済的利益が発生している地域はどこか、世界中を常に観察しています。日本企業の経済活動は全世界に及んでおり、各国の規制当局がそれに目を光らせていると言って過言ではありません。

競争法は世界100ヵ国以上で導入され、リニエンシーを持つ国は日本を含めて50ヵ国におよびます。95年に摘発された飼料添加物のリジン カルテル以降、国際カルテル事案は、世界の規制当局が横の連携をとりつつ摘発を行うようになりました。もはや、日本国内で行われた談合が他の国の規制当局によって摘発される可能性すらあるのです。それに対する日本企業のリスク認識はまだ薄く、脇の甘さを感じます。「握り」「価格協定」など、古典的なカルテルのイメージよりもはるかに手前のところで、当局は摘発を狙って動きます。競合関係にある他社との情報交換や、欧州では競争事業者に対する一方的な情報提供も摘発対象です。ひとたび独禁法違反で摘発されれば、会社存亡の危機に発展しかねません。

巨額の罰金のみならず、社員が実刑に服するリスクも

摘発が企業経営に与えるリスクは 大きく分けて二つあります一つは罰 金、損害賠償や弁護士費用、監督処分に服する場合のコスト負担、もう一つは企業の人的損失です。 まず、コスト負担についての具体的なリスクを概観します。国際カルテルの摘発の範囲は世界に広がっていますが、中でも米国と欧州では罰金と制裁金が大変重く、米国では利 益または被害額の2倍が上限という極めて高額な制裁金になり、加えてペナルティプラスという制度で、罰金の金額がさらに跳ね上がります。 社内調査で違法行為が認められればその解消が求められますが、調査が不完全でのちに新たな不正が発見されるようなことが起こると、「米国政府に申告する機会がありながら、隠していた」とされ、やはり罰金が積み増されます。

また、捜査妨害に対する罰則も非常に厳しいのです。例えば米国では、大陪審から召喚状が来た際に、通常インタビューがなされますが、不慣れな日本人従業員が「競合他社に会ったことがあるか」と聞かれて、反射的に「ない」と答えてしまうことがあります。その後、名刺など実際に会っている証拠が出てきてしまうと、政府に対して嘘をついたことになり、5年の禁固刑という重罰が科せられます。欧州でも審査妨害に対する考え方は非常に厳しいものです。例えばメールの閲覧制限に250万ユーロ、封印破棄については3800万ユーロという罰金が科されています。過失でも制裁が課されることに注意が必要です。

巨額の罰金のみならず、社員が実刑に服するリスクも

摘発が企業経営に与えるリスクは 大きく分けて二つあります一つは罰 金、損害賠償や弁護士費用、監督処分に服する場合のコスト負担、もう一つは企業の人的損失です。 まず、コスト負担についての具体的なリスクを概観します。国際カルテルの摘発の範囲は世界に広がっていますが、中でも米国と欧州では罰金と制裁金が大変重く、米国では利 益または被害額の2倍が上限という極めて高額な制裁金になり、加えてペナルティプラスという制度で、罰金の金額がさらに跳ね上がります。 社内調査で違法行為が認められればその解消が求められますが、調査が不完全でのちに新たな不正が発見されるようなことが起こると、「米国政府に申告する機会がありながら、隠していた」とされ、やはり罰金が積み増されます。

また、捜査妨害に対する罰則も非常に厳しいのです。例えば米国では、大陪審から召喚状が来た際に、通常インタビューがなされますが、不慣れな日本人従業員が「競合他社に会ったことがあるか」と聞かれて、反射的に「ない」と答えてしまうことがあります。その後、名刺など実際に会っている証拠が出てきてしまうと、政府に対して嘘をついたことになり、5年の禁固刑という重罰が科せられます。欧州でも審査妨害に対する考え方は非常に厳しいものです。例えばメールの閲覧制限に250万ユーロ、封印破棄については3800万ユーロという罰金が科されています。過失でも制裁が課されることに注意が必要です。

これを機会に、経営者は、カルテル根絶の決意を固めよ

罰金のほかにも、損害賠償請求訴訟が起こされることでクラスアクションにでもなれば、賠償額はさらに高額になることが予想されます。これは米国だけではなくて、日本でも同様の動きがあります。加えて、国際カルテル違反摘発の副次的効果としては、株価低下の影響の懸念も忘れてはいけません。近年の米国における競争法の運用は厳格化が進み、日本企業の社員が巨額の罰金のみならず社員が実刑に服するリスクも24ヵ月の禁錮刑で服役中の事案もあります。米国では、「服役させる厳しい刑罰で二度と違反行為を起こさせないように矯正する」という考え方が強くなったためです。このような「変化」に気づかない企業も多く、私たちは大変懸念しています。近年では、自動車部品関係のカルテル事件が世界各地で摘発されており、さらに広がりを見せていると言えます。リトアニアやギリシャでの摘発など、日本企業にとって盲点といえる国での摘発例も増え、一方で米国や欧州での制裁金は高額化しており、1社で900億円の支払を命じられた事例も出ています。根本的な対策を講ずるには、経営陣がカルテルを禁止する意思を固め てイニシアチブを取ることが必要です。それに伴い、違反行為があった場合には、きちんと社内の処分を行い、コンプライアンスを徹底させ、定期的な監査で評価を行うことが大切です。企業のコンプライアンス体制がしっかり機能しているという証明を内外に示すことが、とても重要なことなのです。